ビジェイ・シン選手はスタート前のドライビングレンジではとんでもない重さのクラブを素振りします。
いわば野球選手がネクストバッターズサークルでマスコットバットを振るようなものです。
そのクラブはドライバーの形をしたものと、シャフトの先にハンマーのようなオモリがついたものの2本で、いずれも重さは1kgを超えています。
これほど重いクラブを振るのは、手打ちでなく全身の筋肉を使うよう意識できるからです。
またこのクラブを振った後通常のクラブを振るとヘッドスピードがアップします。
シン選手はこれらのクラブをスタート前の練習で、クラブを持ち替えるインターバルごとに五回ほど素振りします。
これほどヘビーな練習ができるのも、シン選手が188cm・95kg という体格の持ち主だからです。
また三塚優子プロは女子ゴルファーの中でも屈指のロングヒッターとして知られています。
身長175cm、体重65kg(公称)と女子選手としては大柄で、その恵まれた体格から放たれるドライバーショットは270ヤードに達します。
これだけのロングショットを打てるようになった秘密は独特のトレーニングにあります。
三塚プロは中学時代、特別製のドライバーを多い時で1日300回振っていました。
その特製ドライバーはシャフトがスチール製で、ヘッドには鉛が付けられており、重さが約1kgもあるのです。
このクラブ以外にも、バットなど重量があるものを選んで素振りしているそうです。
重いクラブをスイングすると筋力がアップすると共に、自然と全身を使ったスイングが身につくといわれています。
それは重量があるゆえに手先で振ることができないため、自然と肩・腰・腕を使うようになり、体重移動も身につくからです。
とはいえアマチュアがいきなりこの素振りを始めると身体を壊しかねません。
そこでまずは、少し重いドライバーを10回程度素振りすることから始めましょう。
ちょっと重めのクラブを素振りするとリラックスにもつながります。
朝イチのドライバーショットの前に、クラブを2~3本まとめて振るなどするとドライバーが軽く感じられます。
ちなみに、重いクラブのスイングは子供には勧められない練習法です。
ゴルフに限らず、スポーツや芸術などの分野で技術を高めるためには、ある程度早い時期から習得を始めると有利であることにおそらく異論は無いでしょう。
それでは、「ゴルフは飛ばしが大事」だからと、子供が小さいうちから重いクラブを使わせるのはどうでしょうか?
石川遼選手の母校・杉並学院ゴルフ部で2008年から監督を務めている鷹巣南雄さん(日体協公認プロゴルフ教師)は、この考え方には異を唱えています。
「あまりに若い頃から体を酷使すれば、大人になってから歪みが起こる。小学生のうちは重いクラブを振り回させるべきではない」
と考えていて、
高巣さんが中学1、2年生を指導する際には、ランニングなど基礎体力トレーニングに時間を割くようにしているそうです。
(スポーツジャーナル2010秋号 29ページより)
また、小さい頃から何かひとつのスポーツだけを子供にやらせるのは、長い目で見るとこれもあまり良くないのではありませんか?
子供は神経・骨格・筋肉が発達段階にあるので、外遊びで身体を動かしたり、様々なスポーツを体験することで総合的な運動能力を養うべきです。
ゴルフに限らず、野球だけ、あるいはサッカーだけなど、行う運動が偏ってしまうと、その運動で使わない神経や筋肉などは発達しないことになってしまいます。
指導に熱心になるあまり、大人向けの練習や、「ゴルフ以外はダメ」といった強制を子供に課すのはやめるべきではないでしょうか。